没落人生から脱出します!
「……もしかしてリアンは、そのとき私を抱きしめてくれましたか?」

 見る見るうちに、リアンの頬が赤く染まる。それを見て、エリシュカもつられて恥ずかしくなってきて、うつむいた。
 リアンはゴホンと咳ばらいをすると、エリシュカのつむじのあたりに「思い出したのか?」と声を落とす。
 ぼんやりと、温かさを思い出す。悲しくてつぶれそうな気持ちが、一瞬で温められた。ひとりでも、好きだと言ってくれたことで、生きていてもいいんだと思えた。

「おぼろげな感じですけど、思い出しました。すごく悲しかったことと、凄く救われた気持ちになって、胸が温かかったこと」

 誰かが好きだと言ってくれることで、存在価値が生まれる。自分がこれまで腐らず前を向いていられたのは、もしかしたらリアンのおかげだったのかもしれない。

「記憶を失ってからもめげずにいられたのは、その温かさを覚えていたからかもしれません」
「……そうか」

 今もそうだ。意見が違うと分かっていても、リアンは根気強く話は聞いてくれる。
 幼少期に、そんなリアンが側にいてくれたからこそ、エリシュカは自分らしさを失わずにいられたのかもしれない。

「だったら、私はリーディエさんを好きって言い続けます」
「なんだ、いきなり」
「家族じゃなくても、好きだと言ってくれる人がいれば、救われることもありますもの」
「そうか」
「少なくとも、私はそうでした」

 なぜか、リアンが黙りこくった。顔を上げれば、彼はそっぽを向いていて、耳のあたりが微かに赤い。

(もしかして、照れてる?)

 つられるようにドキドキしながらリアンを見つめると、彼はエリシュカの頭をポンと叩いた。

「変わらないな、お嬢は」
「そうですか?」
「ああ」

 どことなく優しいまなざしに、エリシュカは急に落ち着かなくなってきた。
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