かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました



なんとなく周りから視線を感じるなぁ、という疑問の答えが出たのは、既に日が落ちたあとだった。

無事仕事を終え会社を出ようとエレベーターに乗り込んだときに、ふと先週木曜日のことが頭に浮かんだ。
オムライス店で酒井部長と鉢合わせになってセクハラ発言を受けたことを。

あのとき居合わせたふたりの女性行員。そこから話が広まり、木金、そして今日一日をかけて浸透していった結果のこの視線か、と納得する。

あのふたりの口が軽くなければいいな……なんて淡い希望が見事に打ち砕かれうなだれる。

いったい、どんな噂になっているんだろう。
ふたりでランチをとっていたっていう内容だけならいいけれど、そこに尾ひれがついていたら面倒だし困る。

桐島さんとの噂だってまだ下火とは言えない状態なのに加えて酒井部長との噂なんて……とため息を落としながら、背中をエレベーターの壁に預ける。

そして、バッグから携帯を取り出し、起動させたままのメッセージアプリを眺めた。

画面に映るのは、桐島さんとのトークルーム。
最新のメッセージは桐島さんからで……日付は二日前の土曜日だった。

〝なにかしたなら謝りたい〟という趣旨のメッセージに、唇を噛みしめる。

なにかしたなら、という部分に答えるなら、思わせぶりな発言や行動だけど、私が桐島さんを避けている理由は自分自身の恋心だ。

だから私の気持ちが落ち着くまで少しだけ時間がほしい……と思っただけなのに、桐島さんが日を空けずに連絡を入れてくるのでそうもできず、結果、避けている形になっているだけで、桐島さんに腹を立てているだとかそんなんじゃない。

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