かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「わざわざ訪ねてきた陸の友達を外で待たせるわけにもいかないですし、気を付けてっていくら言っても、陸は忘れちゃうので。もう、こっちが諦めて我慢するしかないのかなって」

時間にルーズな人はルーズなままというのと同じで、何度注意したところで陸の物忘れは直らない。

陸本人も、直そうとして頑張ってもどうにもならないんだろう。だったら仕方ない。
だから、毎回注意はしているものの期待はしていないのだと笑って説明すると、桐島さんはわずかに眉を寄せた。

「陸がわざとしているわけじゃないのはわかる。でも、相沢さんは女の子だし、やっぱり危ないよ」

真面目な眼差しに訴えられ、思わず息をのむ。

「変な気を起こした男を相沢さんひとりじゃどうにもできないだろうし、陸がいない時には、部屋に男を入れないほうがいい」

人当たりがよく、柔らかい雰囲気を持つ桐島さんが、今は瞳に厳しさを浮かべていた。

さっき、桐島さんは自分で自身のことを〝事なかれ主義〟だと言っていた。それなのに、こんな風に陸と私の話に強く意見され意外に思う。

普通だったらスルーする問題だ。放っておいて例え私になにかが起こったとしたって、桐島さんにはまったくもって不利益にはならないのだから。

ビーフシチューひと皿で、そこまで借りを作ったと思わせてしまったのだろうか。

最後に「俺からも陸に注意しておくから」とハッキリと言い切った彼に、少ししてから「……はい」と答えることしかできなかった。


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