かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


仕事なら仕方ないけれど……陸の性格からして、恐らくそうじゃない。
ビーフシチューを頼んだ事なんてコロッと忘れて同僚と飲みに行っているとか、そんなところだろう。

で、ご機嫌に帰ってきて、私の不機嫌な顔を見てひとしきり不思議がってからようやく「あっ、そうだった! 澪、ごめん!」なんて思い出すのが毎度のパターン。

本気で忘れているから、また性質が悪い。

「帰ってこないとして。夏場だし出しっぱなしはまずい。でもウチの冷蔵庫にはお鍋を入れるスペースはないし、小分けにして冷凍するにも真空パックは切れてる……。もう罰としてファミリーサイズの冷蔵庫買ってもらおうかな」

でも、買わせるとしても、今回のビーフシチューは間に合わない。

つまり八方ふさがりの状況に、蓄積したイライラがついに沸点に到達する。できる限り大きなため息を吐いたあと、続けて盛大な独り言が口をついた。

「もー……なんでよりによってビーフシチュー頼むの? 私がビーフシチュー苦手なの分かってて作らせてその上約束忘れるとかもう本当に……どうにかしてやりたい。あの男」

ソファの背もたれに完全に体を預けながらぶつぶつ文句をこぼしていた時。
インターホンが鳴り、ガバッと体を起こす。


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