かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「五回目でも、相沢さんとなら喜んで行くよ」
「……そういう、周りが誤解するような発言はやめてください。私の平穏な行内での時間が壊れると困るので」

「なんのこと?」と言いながらも、桐島さんの口元は笑みを浮かべている。
わかっていて言っているんだなと思い、眉を寄せため息を落とした。

最後のひと口になったご飯を口に入れ、発泡スチロールでできたパックにふたをする。それをビニール袋に入れようとして、中に入れっぱなしだったものに気づいた。

「桐島さん、ミントガムとか食べますか? くじで当たったんですけど、私からいガムって苦手なので、よければ」

さっきお弁当屋さんの帰りにコンビニで買い物をしたら、期間限定のくじを引かせてくれた。
粒のミントガムが十四個入っている棒状のパッケージを差し出しながら言うと、桐島さんが手を伸ばす。

「好きだけど、いいの? 俺がもらっても」
「はい。いらないのでよければ……」と言いかけたところで、ハッとして思わず苦笑いをこぼした。

「なんか私、桐島さんに残り物ばかりあげてますね」

ビーフシチューといい、景品のガムといい。
なんだか申し訳ないなと思い言ったのだけれど、桐島さんは楽しそうに「ほんとだ」と笑っていた。

行内でこれ以上人気になりたくないのであれば、そういう笑顔は控えた方がいいと思った。


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