かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


桐島さんとはこうして食事をするのは二回目だけど、やっぱり雰囲気がフランクだからか気を遣わずにいられた。
話題も豊富で、仕事の話やスポーツの話、好きな漫画の話などジャンル問わず盛り上がり、時間を忘れるほどだった。

ただ、追加注文するたびに、料理を運んでくるバイトらしき女の子が桐島さんにこれでもかってほどの笑顔を向けるので、なんだかちょっと申し訳なかった。

桐島さんがひとりで来店していたら、話しかけたりしたかったんだろうなと思ったから。

それぞれのアルコールがなくなり、豆腐サラダやだし巻き卵、レンコンのきんぴら、アスパラと牛肉の炒め物など料理をほぼ食べ終えたところで、桐島さんが「さっきの彼だけど」と話を切り出した。

「黒田さん、だっけ。いつ頃付き合ってたの?」

当たり前のようにされた質問に、やっぱりあの時、声をかける前から聞かれていたのかとため息を落とす。

「私が中三の頃に、一ヵ月弱だけ。なので、ほぼ付き合っていないも同然です」

小皿に取り分けた料理を食べながら答えると、桐島さんは驚いたように眉を寄せた。

「そんな昔に付き合ってただけなのに、まだしつこく声をかけてきてるのか……すごいな」
「あ、いえ。ずっとではないです。別れた後は少し付きまとわれましたけど、そこから今日まではなにもなかったですし。今日はたまたま会って声をかけられただけで……でも、十年ぶりくらいに会ったのに普通に話しかけられてびっくりしました」
「電話とかもなかったの?」
「あ……えっと、別れてからずっと着信拒否にしてるので」

一拍置いたあとで、桐島さんが「そんなに嫌な別れ方したんだ」と言うから、苦笑いだけ返した。


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