かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


距離が一気に縮まる。
もともと数人用の席だから広さはないけれど、今日一番の至近距離に内心戸惑っている私を、桐島さんの観察するような瞳が見つめる。

「でも、相沢さんが気にしてるのは、黒田さんとの一件じゃないよね」
「え?」
「さっき話してるとき、少し表情が曇ったように見えたから。たぶん、自暴自棄になった原因のせいかと思うけど……聞いていいか悩んでる」

桐島さんが私をじっと見つめながら「しつこい男は嫌われるから」なんて言うから、思わず笑みがこぼれた。

「さっき『以上です』って言いましたよ、私」
「それ以上はどうしても話したくないって意味の『以上です』なら諦めるよ。でも、場の雰囲気とかを考慮しての『以上です』なら、俺は聞きたいかな」
「でも……つまらない話ですし」

黒田との馴れ初めと違って、無理したってあまり明るく話せるものじゃない。だからきっと、聞かされたところで反応に困るだろうと思い遠慮したのに、桐島さんは楽しそうに笑う。

「相沢さんのつまらない話なら聞きたい。そんなに身構えなくても大丈夫だよ。アルコールが入った頭じゃどうせきちんと理解もできないし記憶にも残せないだろうから」

そんなしっかりした口調でよく言う……と思い、ふっと笑みをこぼす。

「じゃあ、もう一杯飲んでください。私も頼みます」

わかりやすくお酒の勢いを借りようとしている私に、桐島さんがおかしそうに笑い店員さんを呼んだ。

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