かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「感謝されたくて助けたことも、庇ったこともなかったけど……でも心のどこかではそういう反応を期待してたんだなって恥ずかしくなりました。いい気になってたのかなって。それ以降は余計な口出しも行動もやめました」
やめた、というよりはためらうようになったという表現の方が正しい。
「それまで当たり前に踏み出せていた一歩が、怖くなったんです」
そういう場面を目にしたら、〝助けに入りたい〟と思ってしまう。
けれど、その衝動を追いかけるように〝また迷惑だったら?〟という不安が生まれ……結果、なにもできなくなった。
私がなにかすることで、余計にややこしくするかもしれない。
よく事情も知らない私がズカズカと立ち入るのは迷惑かもしれない。
助けに入らないですむ言い訳はいくらでもあって、それがなんだか悔しかった。
そんな時、陸から黒田の話をされうなずいた。黒田もよく陸を庇っていたから、そこに関して私を責めて傷つけることはないと思ったから。私の気持ちをわかってくれると思ったから。
自分を守るための打算だった。
だから、別の形で黒田に傷つけられる結果になったって、自業自得だ。
「自分が正しいと思うことを行動に移してきただけで、相手の都合は考えていなかったんです。だから……たぶん、あの人が言ったようにひどい独りよがりでしかなかったんだと思います」
グラスの表面を結露してできた水滴が流れる。
それを何気なしに指先ですくっていると、少しの沈黙のあとで桐島さんが言う。