東京ヴァルハラ異聞録
「まず、雑念を捨てるんだ。意識を集中しろ。身体にも記憶にも刻まれていなくとも、魂は覚えているはずだ」


そう言って振り上げた木刀。


目の前の男は、手加減というものを知らないのか、まるで俺を殺すかのような勢いで振り下ろしたのだ。


「う、うわっ!!」


そう声が漏れたものの……木刀を掴んだ右手が、この男の攻撃に反応して木刀を受け止めたのだ。


「そうだ!魂は覚えている!お前が生きた、ヴァルハラの世界の事を!!さあ、記憶の扉をこじ開けろ!」


鍔迫り合いのような形になり、男の顔が俺に近付く。


「いきなりやって来て、何をわけのわからない事を!!高山真治!お前はっ!!」


……そう言って、自分で驚いた。


この男の名前を、俺は知らないはずなのに。


どうして高山真治だと言ったんだ?


「正解。俺は高山真治だ。どうしてわかった……なんて聞かないよ。きっと、記憶が戻りつつあるんだろう」


「荒療治だったが、昴少年には丁度良いだろう。記憶が戻ったならば、ここに行け。黒崎沙羅の住所は調べておいたからな」


その金髪の女性……恵梨香さんから、一枚のメモ用紙を渡された。


「お前のおかげで、私はこの上なく幸せなのだ。今度はお前が幸せになる番だろう?誰にも、私のような思いをしないでほしいのだ。わかったな」
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