東京ヴァルハラ異聞録
「長谷部さん。あれ……何ですかね?大きな塔みたいな物が建ってる」


その方向を指さして見せると、長谷部さんは不思議そうに目を細めて。


「何って言われても……スカイツリーじゃないし、この方角だったら両国の方?」


つまり、わからないって事だな。


「あ、それより長谷部さんって呼ぶのやめてくれるかな?セクハラ部長に呼ばれ続けてたら、嫌いになっちゃったんだ。苗字」


「は、はあ……じゃあ美佳さんで良いですか?」


元の世界とは違う、魂の世界ヴァルハラか。


そんな所にいるのに、こうして落ち着いていられるのは、この街が東京だから……見慣れているからなんだろうか。


それでも、おかしな事に巻き込まれているという事実は変わりがないんだけど。


「そうそう。じゃあ秋葉原駅に行こうか。昴くん」


なんだか、思ったよりも話しやすい人なんだな。


スーツを着ていたから、ちょっとお堅いイメージがあった。


その分、しっかりした人というイメージもあるんだけど。


二人で橋を歩き、交差点の角にあるパチンコ店を左に曲がった俺達は……驚いてその場に立ち止まった。


そこは……多くの人が行き交って、元の東京に戻って来たような錯覚に陥ったから。
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