東京ヴァルハラ異聞録
こんな街中で……喧嘩か?


と、一瞬そう思ったけれど、俺はある事に気付いて慌てて目を擦った。


ガラスに映っているのに……実際には通りにいない?


どういう事だ。


おかしいだろ。


拓真と麻衣は話に夢中で、それに気付いてないみたいだ。


「な、なあ。あれ見てくれよ。そこのガラスに喧嘩してる人が……あっ! バールで殴られた!」


ナイフで刺そうとしたのか、突き出した手を、もう一人の男がバールを打ち付けて、それを止めたのだ。


だけど、それはガラスに映った人の話。


「はあ? 何言ってんだ昴。また鏡の中の彼女の話か?」


「違うって! 本当にいるんだよそこに!ほら……って、あれ?」


俺が指さして見せた時には、その二人はもう消えていて……またもや誤解を生むだけの結果となってしまった。


「ねえ、本当に大丈夫? 受験勉強頑張りすぎてるんじゃない? もっと気楽にさ……」


「俺は!! おかしくなんかない! ずっと本当の事しか言ってないんだよ!!」


つい、大声で怒鳴ってしまったけど……ハッと我に返って俯いた。


拓真と麻衣に、哀れむような表情を向けられているのが情けなくて。
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