東京ヴァルハラ異聞録
俺の周りにいた人達は、まるでおかしな人を見るような目で、蜘蛛の子を散らすように去っていった。


どういう事だ?


あの時何があったんだ。


何とか状況を整理しようと、周囲を見回すと……交差点の向こう、普通に自動車が走っているのを見て、俺は慌ててそこに駆け寄った。


「嘘だろ……ここってもしかして、元の世界なのか?」


いや、夢を見ているという可能性もある。


頬をつねって見るけど、痛いから夢ではなさそうだ。


「何が起こったんだ……槍に貫かれて、光に包まれて。そして、元の世界に戻った?」


ホッと安心したと同時に、言いようのない不安というか、もどかしさを感じる。


俺一人だけ、元の世界に戻ったっていうのか?


沙羅とバベルの塔に行くって約束したのに。


だけど、どうやって戻ればいいんだ。


元の世界に戻る事すら想像していなかったのに。





「お、おい、なんだあれ……悪魔?」


「なんかの撮影じゃねぇの?それにしてもよく出来てるな」





ぼんやり考えている俺の後方で、そんな声が聞こえて、俺は慌てて振り返った。


群衆が空を見上げていて……そこにビショップがいて、不思議そうに辺りを見回していたのだ。
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