『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
[春加ちゃーん、望さーん、お茶にしましょ。上がってらっしゃい]
突然インターコムから2階のお母さんの声。
「え? え、え?」
いまさっきまで年上風を吹かせていたゾンビが、声の出所を探してあわてている。
インターコムは段ボール箱のうしろだ。
教えてやらないけど。
「このへんやったか?」
あら。
意外と耳はいいらしい。
ズラした箱のうしろに操作盤を見つけたゾンビは、それでも眉毛を下げてあたしを見た。
「どう返事すんの、これ」
「知らないの?」
「…………」
ボタンの上に指をさまよわせるけど、さわる勇気はないらしい。
ヘタレめ。
「春加さま。どうしたもんですかね?」
「…………」
なんだか皮肉っぽいけど、まぁいいわ。
「おぼえてね。その四角いボタンを押している間だけ、しゃべれるの」
「――どれ? これか?」
「それは玄関」
「どっちも四角いやねぇか」
「だから、青いシールが貼ってあ――…」
のぞきこんで言葉を飲みこんだ。
使いこまれて色あせていたシールは、はがされていた。