『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
 独身を貫いて、社長業をがんばっている恵子ちゃんになぐさめられながら、あたしがもっと小さいころは、お母さんはよく台所で泣いていた。
 生まれる前からおじいちゃんに『春雄』と名づけられていたあたしに、春加(はるか)という名前をくれたのは恵子ちゃんだ。
 おじいちゃんの押しつけた春雄という名前に途方に暮れていたお父さんに、お母さんの加代子の『加』をつけて春加にしちゃえ、と言ってくれたんだって。
 そんなことをあたしが知ったのは小6の秋。

 お正月もお盆も、おじいちゃんが招集する親戚はみんな、お母さんを泣かしてた。
 恵子ちゃんもいいかげんにしろと怒鳴ってくれるようになったころ、お父さんの転勤であたしたちは逃げるように東京に来た。
 親戚がだれも来ない、3人だけの生活になって。
 お料理が大好きになったお母さんが、あたしにお赤飯を炊いてくれた小6の秋。
 お父さんがぽろぽろ泣いた日だ。

『春加ぁ。お母さんと女子会で盛り上がるのはやめてな。お父さんもちゃんと、まぜてな』って、トレーナーのそでがびしょびしょになるくらい泣いて。
『女子会じゃないよねぇ。春加の好きになったひととお母さん、3人でランドデートだよねぇ』って、お母さんがお父さんをからかって。
 あの日あたしたちは、初めて将来のことを話した。
 本家とか分家とか後継ぎとか、気にする必要はないってこと。
 お父さんとお母さんは、あたしひとりで充分に幸せだってこと。
 だからあたしにも、好きなひとと好きなように生きていく強さをもってほしいってこと。
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