『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
 11歳だったあたしには、はっきりいって、よくわからなかったそんなことを、今はちゃんとわかっている。

「本家に男の子がおらんかったのは、無念やったろうねぇ、おばさんも」
 ふん。
 おばあちゃんは、そんなひとじゃないもん。
 あたしがひとりっ子なのは、お母さんのせいじゃないって言ってくれていた。
 恵子ちゃんだって、あたしにはちゃんと恋をして、大好きなひとと結婚する幸せな子になってほしいって言ってるもん。
 それでいいって、お父さんだって言ってるもん。

「そういえば春加(はるか)、あんたお勉強はええが? 春休みは宿題ないがけ?」
 恵子ちゃんがウインクする。
 あたしをやかましいおばさんたちから逃がしてくれるつもりだ。
 でもあたしが逃げたら、独身の恵子ちゃんが標的になっちゃうから。
「だいじょぶ。お手伝いするよ」
 酒造自慢のお酒をお酌してまわっている恵子ちゃんから、空のとっくりを受け取る。
 小さな注ぎ口から立ちのぼってくる清酒の香り。
 お酒に弱いお父さんに跡取りなんて、そもそも無理だったんだろうな。
 あたしは良い香りだと思うから、おとなになったら酒豪かも。
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