『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
「あーったく! のしかかられるなら、まーちっとオトナで! ムネがでけぇネエチャンのほうが好みなんや、おれは」
「なっ…」
 思わず両手で胸をかかえこみ。
 こんなときに…
「な…に、ばか言ってるのよぉぉぉぉ!」
 ゾンビは返事もせずに、ずんずん階段を降りて。
 振り返りもせず、さっさと部屋のなかに入っていった。
 
 つられるようにドアをくぐって足が止まる。
 リビングだった部屋を寝室にしたゾンビのせいで、入ったとたん目に入るのは巨大な真っ黒のセミダブルベッド。
 いつもは平気でその横を通りすぎて、今やあたしの図書館になった本棚に直行していたのに。
「ほれ、来い!」
 呼ばれたって!
 ゾンビがお父さんみたいな白いワイシャツを着ているせいで、なんだかきゅうに、ここってば男の人の部屋なんだもん。
「あー、やだやだ。消臭スプレーぐらい置いておきなさいよ」
 聞こえるように言いながら鼻をつまんで。
 そんなことをしている場合じゃないことを思い出した。
 いま考えなきゃいけない、もっと大事なこと。

 いいなずけってなんだろう。
 いやいや、婚前交渉だ、問題は。

 思わずベッドから目をそむけて。
 そのせいでいきなり心臓がドクドクはずみだした。
(やだ。やだやだやだ)
 えっちなこと考えちゃったじゃないの。
(うわうわうわ)
 ラヴシーンなんてドラマでしか見たことがないから、ベッドで男の子といちゃいちゃしている自分の姿は思い浮かばない。
 そのことに少しだけホッとする。
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