『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
 そのむかし富山で暮らしていたころは、『春ちゃん、うなぎを食べに行かんかね』って。夏休みはおばあちゃんとふたりで岐阜の分家におじゃました。
 分家のおじいちゃんは、おじいちゃんの弟で。
 歩いて行けるところに川がある大きな新しい酒造には、冬になるとやってくる杜氏(とうじ)さんのために3階建てのビルが併設されていて、夏休みはそこが親戚中の子どもたちの合宿所だったから。
 そこで毎年会った、ふたりの男の子は伯母さんの子だったはず。
 養子をとって後継ぎの男の子を生んだ――それもふたりも――伯母さんは、本家を継いでいる恵子ちゃんよりも態度がでかい。
 なにもわからない子どもだったころから苦手だったから、その子どもたちがどうなったかなんて、今の今まで考えることもしなかったけど。
 あたしが庭を走り回っているのを、ベランダで見ているだけっていう記憶しかない、あの、ボーズ頭の、デブの、無口な地矢家の次男。
 いつも気がつくとあたしをにらんでいて、子ども心にもおそろしかった。
 ちィ兄ちゃんと呼んでいた、あの男の子。
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