無口な彼の熾烈な想い
「美味しそう。家にはろくなものがなかったと思うけど、そこからこれだけのものを作れるなんて、さすが料理人」

鈴は絢斗の横に立ってお鍋の中を覗き込んで言った。

「身体は大丈夫か?」

「全然平気」

良く小説なんかで゛足腰が立たなくなった゛なんて表現があるが、あれは男のロマンの誇大表現なのだ、と鈴は思った。

股に違和感はあるが、実際には万年運動不足の鈴でもこうして立ち上がれるし普通に動いている。

゛もしかして動けない演技でもした方が絢斗さんを満足させたのかしら?゛

鈴はハッとして絢斗を見上げたが、

「そうか、安心した」

と、絢斗は嬉しそうに微笑んだだけだった。

そこには、悲愴感もがっかりした様子も見受けられなかったので、鈴も間違えなくて良かったとホッとした。

゛それにしても、いつもにまして絢斗さんが格好いい(ため息)゛

鈴は危ないと思いつつも、お玉を握る絢斗の腕にそっとしがみついた。

なんだろう、たった一回身体を繋げて想いを伝えあっただけなのに、とても離れがたく感じる。

そばでこうしてイチャイチャと肌を寄せ合ってあたたかな体温を感じていたい。

なんて、初めて感じるもどかしい想いに鈴は翻弄されつつあった。

「絢斗さん、好き」

思わず口をついた言葉は、紛れもない真実で、鈴は照れながらも絢斗の逞しい腕に頬を擦り寄せ満足するのだった。
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