無口な彼の熾烈な想い
「ところで、どうして瀬口さんは私の家に?もしかして兄が迎えを強要したのではないですか?本当にご迷惑をおかけしました」

浮かれた兄の強引な行動も、鈴にとってはありふれた行動なのだが、初対面の絢斗を巻き込むのはよろしくない。

その上、暴走した絢斗の姉、綾香の強引さも懸念の種だ。

抵抗を示すことが出来なかった絢斗の巻き込まれた感は、筆舌に尽くしがたいに違いない。

無理やりあずけられたピーちゃんの災難に巻き込まれたあげく、適切な病院に搬送して救命までして飼い主のもとに返してあげたにも関わらず、過剰な見返りを要求されて、言ってみれば絢斗も大概な被害者だ。

たまたま対応した鈴も、巻き込まれた感満載で辟易しているのだが、文句も言えずにこうしてここにいる。

鈴は妙な連帯感を覚え、絢斗に申し訳ない気持ちになった。

「いや、大丈夫だ」

言葉が足りなさすぎて何が大丈夫なのかいまいち伝わらない。

゛あれ、選択肢を間違ったのかな?゛

推しメンとのゲームにはストーリーを進めるための選択肢が多数存在する。

リアルイケメンとの会話は、仕事以外には経験がないため鈴には正解がわからない。

攻略本もなければ、インターネットでのネタバレもない。

絢斗を攻略する気もないのでそんなものは端から必要ないのだが、隠されると暴きたくなるのが攻略者の本能である。

その上、鈴は獣医であり、物言わぬ動物の気持ちを推測することには長けている。

鈴は再び黙り込むと、今夜一晩、この無口なツンツンデレなしイケメン瀬口絢斗の内面について、観察し考察してみようと妙なやる気をみなぎらせるのであった。

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