無口な彼の熾烈な想い
「いらっしゃいませ」

絢斗にエスコートされ落ち着いた大人の雰囲気のモダンな店内に案内されると、白いシャツに黒いスラックス、お洒落なソムリエエプロンを身に付けたイケメンギャルソンが3名待ち構えていた。

゛ホスト?・・・ここはホストクラブなのか?゛

そう勘違いしたくなるくらい、みな顔面偏差値が高かった。

だが、イケメンに興味のない鈴はそんなことは一瞬の驚きで終わり、すでに興味は店内の内装に移っていた。

かくいうイケメンギャルソン達なのだが、硬派なオーナー、女っ気の全くなかった絢斗がエスコートしてきた(雰囲気)美女に興味津々だったが、後ろに構える魔女が恐ろしくて、誰一人言葉にできずもどかしい思いを抱えていた。

「ようこそいらっしゃいました。鈴さま。お兄様方は既にご来店頂いており、奥の間でお食事を始めて頂いておりますよ」

゛もう食べとるんかい!゛

あまりの遠慮のなさに呆れ、内心突っ込みを入れる鈴だったが、あの鈴以上にマイペースな兄夫婦である。

期待するだけバカだった。

目の前には、セクシーなユニフォームを纏って堂々登場の絢斗の姉、フロアマネージャーの瀬口綾香。

イケメンの取り巻きにも負けずとも劣らない登場はさすが悪役令嬢・・・いや、女王の貫禄である。

「本日はお招き頂きありがとうございます。噂通り素敵なお店ですね」

社交辞令ではなく、本当に素敵なお店と思ってはいるが、本当に来たかったかと言われればそうでもない。

しかし、人目が気になる以上、鈴も女優になりきるしかないだろう。

゛本当は昼まで惰眠を貪り喪女生活をエンジョイしたかった・・・゛

と内心文句たらたらだったのだが、雑誌の取材なのかカメラやタブレットを持った男女がいたり、フロアの客からも注目を浴びていると感じる今、口が裂けてもそんなことは言えない雰囲気があった。
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