無口な彼の熾烈な想い
彼らから目を反らし黙り込む絢斗は、鈴が初めて会ったときのように無表情でなんの感情も感じ取れない能面のような雰囲気を醸し出していた。

「へえ、ケントちゃんって時には男装もするんだ。もしかしてその子もそっち系の男子とか?」

絢斗から鈴に目を向けた男性は、不躾に何かを見定めるようにして鈴を上から下までジロジロと見てはにやけていた。

「ちょっと、やめなさいよ。もしかしたらケントちゃんも嗜好を鞍替えしたのかもしれないでしょ?それに、この子、どう見ても女子だし、余計なこと言ってこじらせたらめんどい」

すかさず、妻らしき女性が男性の不愉快な言動を咎めたが、その言葉にも悪意が込められているようで鈴は不快に感じた。

「いや、どんなに誤魔化そうとしたって本質は変わらないさ。イケメン風を装ったって心は乙女。ほら、アイツの手に持ってるぬいぐるみが証明してるだろ?」

「あっ、本当だ~。ケントちゃん、相変わらず乙女」

クスクスと笑う夫婦の横で、我関せず子供たちははしゃぎながらお土産を品定めしている。

女の子はサイの置物を、男の子はウサギのぬいぐるみを触っている。

そんなシュールな雰囲気の中、

夫婦のからかいの言動を受けた絢斗は、シロフクロウのぬいぐるみを握りしめる手にギュッと力を込めながら無表情を貫いていた。

この夫婦は絢斗さんの知り合い?

もしかしなくてもこの人たちは絢斗さんの趣味(では決してないだろう)ことを馬鹿にしているの?

鈴は、絢斗の無表情と夫婦のニヤケ顔を交互に見たあとで、シロフクロウのぬいぐるみを握りしめる絢斗の手を取った。

「これは私のために彼が買ってくれようとしたものですが何か問題がありましたか?」

最強の営業スマイルで首を傾げる鈴だが、目は笑っていなかった。

「こいつ、ちょっと特殊な趣味があるんですよ。イケメンだと思ってうっかり近づいたなら、お姉さんも後で後悔したりがっかりするんじゃないかと思って」

「別にいいじゃん。可愛い格好のケントちゃんのこと気に入ってる女子もいたよ?ひとそれぞれでしょ?」

「でも今日は擬態してる姿だろ?イケメンシェフとか騒がれてるらしいけど本当のことを客が知ったらどう思うか。いつかはバレるんだから嘘はいけないと思うぞ?」

おそらく、この夫婦は絢斗の昔の知り合いで、絢斗の何らかの秘密を握っている(主に一方的に)。

そして、文句を言わないとわかっている絢斗に、こうしてあからさまの悪意をぶつけて喜んでいるのだと確信した。
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