無口な彼の熾烈な想い
幼い頃から母親に無理難題を押し付けられ、抵抗することも許されず、自分を圧し殺してきた弟の絢斗。

姉の綾香だけが味方となってはいたが、それも物心ついてからであったため、ある意味手遅れ感があった。

我が儘も言えず、周囲のからかいや蔑みに耐えながらも必死で自分を保ってきた絢斗。

絢斗が中学に上がってからは、母の干渉や興味も薄れ、絢斗自身が家を出て学校付属の寮に入ったため環境は改善されたといえよう。

しかし、母から受けた仕打ちは根深く、絢斗の心は閉ざされたまま。

開くことは用意ではなかった。

無口で無表情。

他人に心を開くことのない絢斗の様子は周囲に誤解を与え、高校を卒業するまで彼の孤独は続いた。

高校卒業後は特技を活かしてフランス料理の専門学校に進んだ絢斗だったが、そこでも師匠のルイ(日本に帰化しているフランス人と日本人のミックス、綾香の現夫で花菜の父)以外には心を開くことはなかった。

ミックスであるルイは日本で差別的ないじめにあった過去があり、絢斗の荒んだ心に寄り添える貴重な人材だった。

そんな男性ルイに綾香も心を惹かれた。

後に結婚し子供をもうけて今に至るのだが、関口家にたまに訪問してくることがあるとはいえ、いまだに独りを好む絢斗が綾香は気がかりでならなかった。
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