無口な彼の熾烈な想い
「姉さんはそもそも、なんでこの時期に新たな店舗を増やそうと考えたの?」

「それはまあ、あの人の気まぐれかな?」

゛あの人゛とは、綾香と絢斗の母親である彩月(さつき)のことである。

「感染症絡みでどこも売り上げが落ち込んでいる最中に、新しく店舗を立ち上げるなんて正気の沙汰じゃない」

珍しく苦々しい表情を浮かべて訴えてくる弟の人間らしさに、綾香は内心涙が出そうになるくらい感動していたのだが、そんなことは尾首にも出さないように注意した。

彩月が゛正気の沙汰ではない゛ことは今に始まったことでない。

大切なのはその事を絢斗が初めて指摘したことなのである。

「あら、あの人の申し出に反論するなんて珍しいのね」

こんな突き放したような言い方は絢斗を傷つけるのかもしれない。

しかし、ようやく絢斗が自分の意見を口にし、彩月への反撃の狼煙を上げようとしているのだ。

綾香はその覚悟に応えたいと本気で思っている。
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