無口な彼の熾烈な想い
「ねえ、もしかして今日は猛禽類が主役なの?それともモフモフネコ科が主役かな?」

そう言って笑う、目の前の鈴は絢斗の過去を知らない。

誰かに恋に落ちたり、心を許したり・・・。

そんな曖昧な出来事のきっかけは、案外唐突で、感情論と片付けられる程度のものなのかもしれない。

だが、77億人の人間がいて、そのうちの何人に心を奪われ、安らぎを感じることができるのだろう。

まだ4回しかあっていない。

SNSで会話をしたのも数えるほどだ。

だが、絢斗は鈴のことを信頼でき、これからも一緒の時間を過ごしていきたいと思った。

傷付けられたり、裏切られたりする事への不安がないとは言い切れない。

しかし、魂が感じるのだ。

この人を手放してはならないと。

「何?絢斗さん、黙りこんでどうかしたの?サプライズ?」

「ああ、初めては猛禽類だ」

無表情で愛想がない自覚はある。

鈴が絢斗に睨まれていると思っているのではないかと不安になったが、鈴の優しい表情を見て絢斗は不安を打ち消した。

「フクロウは神だよね。あのクルクル変わる表情を見たら好きにならない方がおかしい」

絢斗は動物園で見たシロフクロウの顔を思い出して吹き出しそうになった。

「あら?絢斗さん、今、シロちゃんのこと思い出してバカにしたでしょ?シロちゃんは世界一可愛い・・・」

「わかった、わかったから。ちょっと待ってほしい」

こうして失っていた笑いを取り戻せたのも鈴と出会ったから。

そんな些細な一時に絢斗が幸せを見いだしたその時・・・。

目の前に突如現れた悪魔によって、そんな至福の時は一瞬にして断ち切られることとなった。

゛どうして俺の希望や楽しみはことごとく邪魔されなければならないのか・・・゛

本来ならばそこを開くはずのない人物の登場に、絢斗はそんな苦言を思い浮かべずにはいられなかった。
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