無口な彼の熾烈な想い
「お母様。ここは絢斗が所有するお店です。成人したんだから絢斗にはもう干渉しないって約束したじゃないですか。もちろん、ルイや私にも迷惑はかけないでって何度もお願いしたはずです。その上、鈴先生にまで迷惑をかけるようなら弁護士を呼びますよ?」

母親が実の子供(もう十分大人だが)に干渉することに弁護士登場とは、なんとも物々しい。

彩月のこれまでの言い草を聞くに、アニマルカフェは彼女の発案から始まった話のようにも聞こえだが、

゛事前に接近禁止令(おそらく仮処分)が出ているというのに過干渉を許すとはこれ如何に?゛

と鈴の頭の中はハテナが飛び交っていた。

「アニマルカフェ構想は、今後、ルイが独立する時のことを見越して検討すると言ってみただけで、実現する可能性は低いって電話で何度も話したじゃない」

実現する可能性が低いことに振り回されていた絢斗と鈴の立場はいったい・・・?

納得いかない側面も多々あるが、なるほど、雇われシェフであるルイさんは今後独立する予定で、その足掛かりとしてアニマルカフェを検討していたのか・・・。

その屁理屈わからないこともない・・・?

「あら、我が儘ばかりのheelちゃんが綾香ちゃんに迷惑をかけているんじゃないかと思って嫌々ながらも注意しに来てあげたんじゃない。誉めて欲しいくらいだわ」

そんな鈴の疑問もなんのその、マイペースな悪役令嬢もとい毒親・彩月はこれでもかと絢斗を貶める。

「頼んでないし。それにこれ以上の醜聞を鈴先生に聞かせたくないわ。ほら早く出て行って」

そんな彩月に対し、常に冷静な綾香も珍しく怒りを露にしている。

マジックミラーの窓越しに見ているであろう、綾香の夫であるルイもハラハラしているに違いない。

「heelちゃん、本当は可愛くもない男臭い顔なんて見たくもなかったけど綾香ちゃんのためにわざわざ注意しに来てあげたのよ。それに、鈴先生みたいな立派な女性のお時間をとるなんてあなたには分相応。身の程をわきまえて引っ込んでなさい」

綾香に腕を引かれながらも、わざわざ絢斗を貶めようとする彩月・・・。

これは、男尊女卑気味な鈴の父の真逆をいく女尊男卑だな、と鈴は苦笑した。

彩月と視線を合わそうとしない絢斗の一貫した態度から、鈴は自分と両親の関係性を重ねて複雑な気持ちになった。

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