無口な彼の熾烈な想い

「このパン、私の大好きなシロフクロウのシロちゃんですね？」

「ああ、こっちはメンフクロウのメンちゃんだ・・・」

考えたら、いや・・・深く考えなくてもなんて安易なネーミングセンス・・・。

ふと、そう考え付いた絢斗は、思考が動物園にいたフクロウ達の変顔に拐われそうになったが、鈴が嬉しそうに猛禽類のパンを握りしめているのを見て現実に戻った。

「このシロちゃんの顔・・・イケメン過ぎます。食べるのがもったいない」

「せっかく作ったんですからあたたかいうちにお召し上がりください。焼きたてをお持ちしたんですよ？」

ルイの言葉に鈴の瞳が輝く。

「うーん、やっぱり好きなものは後回しにしますね。サラダとスープからいただきます。ん・・・美味しい！」

鈴の満面の笑顔に、居合わせた３人のイケメン従業員達の心も満たされる。

お客様が満足するその姿こそが料理人の心を癒す。

だか、メニューを考案したのは絢斗とはいえ、自分が作った料理ではなく、ルイが作った料理が鈴のこの笑顔をもたらしたのだと思うと何だか無性に腹が立つ。

「ルイ、デザートは俺が作るよ」

「はあ？いくら鈴先生にいいところを見せたいからって考案者がしっかりプレゼンして意見をもらわないでどうする」

予定とは違う絢斗の申し出に、半分あきれながらもルイは嬉しそうに笑った。

ルイが絢斗と出会ってからずいぶん経つが、こんなに嫉妬にまみれた絢斗の人間らしい姿を見たのは初めてだったからである。

「プレゼンはデザートをサーブしてからにするよ。鈴、待っててくれ」

「えっ？絢斗さん、食事は・・・？」

鈴が言い終わらないうちに、絢斗は意気揚々と部屋を出ていった。

「すみません。絢斗の代わりに綾香を寄越します。遠慮せずに全部食べてくださいね」

そう言ってルイも、イケメンギャルソン三崎も慌てて絢斗のあとを追う。

「えっと・・・。私、遠慮なんてしませんよ？」

鈴はそう一人ごちると、誰憚ることなく目の前の料理を満喫しはじめるのだった。