離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 普段とはあまりにも違う郁実の様子に異変を感じた私が『……明日なら早番だから十七時には終わるけど』と返すと、彼は待ち合わせにこの建物の前を指定してきた。

「大事な話ってなに? それに、どうしてこの場所だったの?」

 私は、自分が八年前まで住んでいた建物を横目に言う。

 郁実が待ち合わせの場所に指定してきたのは、私が八年前まで住んでいた『あいの豆腐店』だった。

 電話でここに来てほしいと言われたときもその理由を尋ねたけれど、郁実は『会ってから話す』と言葉を濁した。

 ここへ足を運ぶのは、本当に久しぶりだ。

 叔母の家に引き取られ、高校生の間はよく学校の帰りにひとりでここへ来ていた。

 もう手放していて中へは入れないのでただ外から見ているだけだったけれど、ふいに両親と過ごした思い出を感じたくて、近所の人たちに気づかれないように少し離れたところから店を眺めていた。
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