離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
「藍野との約束を守りたくてずっと黙っていたが、君をこんなにも苦しめていたならもっと早くに話すべきだった」

 口を開いたのは、高城の父だった。

 私が顔を上げると、高城の父親は侘しげな面持ちでこちらを見つめていた。私はいつかの記憶が頭を過ぎり、懐かしいその顔にいっそう悲しくなる。

 高城の父は心苦しそうに沈黙してから、ゆっくりと話し出した。

「藍野は、病気で豆腐を作れなくなっていたんだ」

 聞かされた思いもよらぬ言葉に、私は当惑の眉をひそめる。

 父が病気だった?

「父は体調を崩したあとも、倒れて入院するまで豆腐を作り続けていました。豆腐を作れなくなったなんてありえない」

「ある日私は、藍野の豆腐の味がいつもとわずかに違うと気がついた。最初はその日たまたまだろうとそれほど気にしていなかったが、それから豆腐の味は日に日に変化していた。決してマズくはない。普通においしかった。しかし、私が惚れ込んだ『あいの豆腐店』の味とは違っていたんだ」

 驚きに打たれる私に、高城の父はさらに言葉を続ける。
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