離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 普段の私たちの間には存在しない緊張感を感じ取った郁実も、なにも言わずに私が話し出すのを待っているようだった。

 深呼吸をして神経を静めた私は、意を決して口を開いた。

「あのね、この間のことなんだけど。……私、郁実の気持ちには応えられない」

 ここへ来るまでにすべてを話すと決めてきた私は、郁実を見据える。

「なんで?」

 郁実が、無表情のまま訊ねた。

「私、悠人さんを好きになった。お父さんの件に関しては私の誤解だったの。復讐するって言ったのに、ごめん。結果郁実を振り回した」

「謝るなよ。誰を好きになったってお前が謝る必要なんてないだろ」

 そう言った郁実は、苦しげに顔をゆがめる。その表情に、私は胸が絞られたような悲しみが湧いた。
< 174 / 204 >

この作品をシェア

pagetop