離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 国内大手の『サングループホールディングス』の社員ならまだしも、そのビルに入っているカフェで働くだけの私は、当然ながら正式にこの懇親会に招待された客ではない。

 しかし、約二か月前。とある食事会でようやくあの男のいる会社と取引がある人物と知り合うことができた。

 そして、あの男がこの懇親会に参加するという情報を耳にした私は、その人物にお願いし、なんとか招待状を用意してもらったのだ。

 八年前のあの日からあの男に近づくため限りなく情報を集め、二年制の短期大学に入学してからはあの男とかかわりがありそうな企業の人たちがいる食事会などに手あたり次第参加し、人脈を広げてきた。

 それでもあの男に接近できそうな縁にはなかなか巡り合えず、短期大学を卒業して約三年。やっとこの日が来た。

 テレビや雑誌であの男を目にするたびに怒りに打ち震えていたけれど、ついにその姿を直にこの目に映せる。思わずフルートグラスの脚を持つ手に力が入った。
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