これを愛というのなら
chapter:16
「チーフ!いつ俺とデートしてくれるんですか?」


朝礼直後に、1ヶ月前に入社した谷口くんは。

毎朝、決まった言葉を言ってくる。


「いつも言ってるけど、谷口くんとはデートしないよ!」


何でですかぁ?と、オープン前の準備をしようと事務所を出る私を、追いかけてくる。

これも、毎朝。


そして、、、


「谷口くんも早く掃除して!」


鈴木に一喝されて、渋々と言った様子で掃除を始める。



「倉本さんの、薬指見て誘ってるの?」


「はい。婚約者居るんですよね?でも、1回くらいデートしてくれてもいいじゃないですか…」


鈴木に言われても、口を尖らせて拗ねた言い方をする。


「あのね……倉本さんの婚約者が誰か知ってる?」


「知ってますよ!あそこの写真にチーフと写ってる人で。リュミエールの料理長ですよね?」


「そうよ。かっこよくて、仕事できて、優しくて。完璧な人なんだよ!倉本さんと一緒に居る所を見たら、負けたって思うんじゃない?」


「会ったことないですけど、顔がかっこいいのは認めます。でも、俺だって倉本さんを好きな気持ちは変わりません!」


掃除をしながら、今日は鈴木は我慢の限界だったらしい。


仕方ないなぁ……止めなきゃね。


「鈴木、ありがとう。もういいから。谷口くんもちゃんと仕事しようか?」


はい、と言った鈴木。

わかりました、と言って何かまだ言いたげな谷口くん。



どうしたもんかなぁ………

鈴木を育てて、新しく採用した子を指導して。

ある程度、任せられるようにしないと。

社長に宣言しちゃったんだよね。


今の私の、悩みの種。


繁忙期の土日は、人手不足でリュミエールに行かなきゃ行けないし。

繁忙期前には、少しでも二人でも任せられるようにしたいな。



「料理長に、谷口くんの事は話したんですか?」


谷口くんが帰った後、鈴木に訊かれて。

まだ話してないの、と答えると。

話した方がいいですよ、と。


いいのかな?

蓮も、忙しそうなんだよね。


その日、鈴木も帰った後。

利香に電話してみると、利香も話した方がいいって言ってたんだよね。

言うタイミング逃したら、私がガツンと言ってあげるわ、と利香らしい言葉もくれたけれど。

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