これを愛というのなら
あの日以来ーー。

蓮はいつもと変わらない。

浮かない顔は私の見間違いかな?って思うほど。





2階の奥で、この時期の土日は賄いがないため支給されるお弁当を食べようと、向かうと、

そこには壁にもたれかかって、煙草を吸っている蓮の姿があった。



「蓮!?休憩中?」


声をかけると、にっこり笑ってくれて、


あぁ、束の間のな、と。


「梓は今から昼飯か?」


私が持っていたお弁当に視線を移した。


うん、と頷いてパイプ椅子に腰を下ろすと、


「昼飯んときくらい、インカム外せよ?俺のはB棟の声だけだが梓のインカム、社内全体の声が入って来るんだろ?余計に、ゆっくり食えないだろ?」


たしかに、色んな声が入ってくるから食べられない。


それは、わかってる。


だけど、


「いつ呼ばれるかわからないし、何があるかわからないでしょ?」


と、答えると。


「本当に、梓は仕事人間だな」


なんて言うから、蓮もでしょ?と返す。


「そうだな」


それより、手、出して。とお弁当の蓋を開けた私に言うから、

なに?と言いながら手を出すと、その手を握った蓮は、


「少しだけ、握らせてくれ」


指を絡めて、微笑んだ。


「どうしたの?何かあった?」


お弁当を食べながら聞くと、いや、と。


「ちょっとイライラを落ち着かせようと思ってな」


なんて言うから、またパワハラしたんだ、と言うと。


「パワハラってな…その言い方やめろよ!」


そう、笑って。


「仕方ねぇだろ?急いでるのはわかるけど、皿を忙しい時に割る奴が悪い」


と、握っている手の力を強くした。


横に立っている蓮を見上げると、


「愛してる」


私にしか聴こえない声で言ってくれて、握っていた手を離して、灰皿に煙草を入れた。


そして、


「ちゃんと食って、顔を直してから戻れよ。すっげぇ赤いし、にやけ面になってるぞ」


と、笑うから。


「もう!誰のせいよ!」


腕を思いっきり叩くと、


イテッ!もっと加減しろよ、と首にかけていたインカムを左耳に着けた。


その蓮に、私も、と言うと、微笑んでくれた所へーーー


"倉本さん。3件目のゲストさん全て、チャペルに入られました "


インカムにそう、連絡が入った。


マイクで話す時のスイッチを押しながら、すぐに戻ります、と答えて。


「また、ご飯をゆっくり食べれなかった…戻るね」


立ち上がった私に、俺も戻らねぇと、と言ったあと、

マイクのスイッチを押して、"了解。すぐ戻る "と。




デザート?と聞くと。


あぁ。とポケットに入っていたコック帽を出した蓮に、


まだあと3件あるから頑張ってね!


そう言うと、


「梓もな。かなり落ち着いた」


私の頭にポンっと手を置いて、駆け足で戻って行った。




繁忙期に、蓮と社内でゆっくり話せる時間なんて全くなくて。


今のこの時間はレアなのに…インカムの声、一つで仕事モードに切り替わる私たちは良くも悪くも、本当に仕事人間だと思うけれど、、、


お互いに会社から一歩出れば仕事の話は一切しない。

それが暗黙のルール。

まあ、利香と話した、話してもいい内容なら話すくらい。


これはこれで、いいと思う。


蓮と手を繋いで、ずっと一緒に歩んで行けるなら。
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