愛を語るには、一生かけても足りなくて。
 

 本当に、ユウはズルいね。

 ユウは昔から、そうやって私の心をオモチャみたいに振り回すんだ。


「お願い……帰って。お客様だと思って対応してたけど、もう閉店時間はとっくに過ぎてるの。だからもう帰って。お願い」


 私は、そう、力無く答えるのが精一杯だった。

 気がつけば、時刻は二十時半に近づいている。

 私の言葉を聞いたユウは自身の腕時計で時刻を確認すると、また私を凪いだ瞳で静かに見据えた。


「じゃあ、アヤメが仕事終わるまで外で待ってる」

「な、なに言って──」

「待ってる。ずっと待ってるから。アヤメが来てくれるまで……俺は、いつまででも待ってるよ」

「ちょ、ちょっと、ユウ……っ!」


 そうしてユウはそれだけ言うと再び帽子とマスクをつけて、颯爽と店を出ていってしまった。

 静まり返った店内には、私の呼吸音だけが響いている。

 彼に掴まれた左手は、彼に与えられた甘い熱をいつまででも残していた。



 

 
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