キス・ミー・クイック
じっと訴えかけるような(実際訴えているんだけど)視線に負けたのか、マスターはひとつため息をついて、正しい答えをくれた。


「私にもわからないよ」


「ええっ? 分からないってどういうことですか?」


てっきりマスターは知っているんだと思っていたのに。


「どういうこと、といわれてもね。だいたい付き合ってます、なんて公言するものじゃないだろう? 私が知っているのは、彼らはここで知り合ったということだけ。店の中では恋人のふりをすることがあったが、本当に付き合っているかどうかは知らないよ」


恋人の振り?


疑問がまた増えてしまった。


「彼らは、たまに今日みたいなことをするんだ。遊びのような、駆け引きのような。店から出たあとのことは、二人にしか分からないよ」


それを想像するのも、バーテンダーの楽しみだろう、とマスターはいう。





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