俺のカノジョは
それから数日後の当直の夜。
院内の消灯時間を過ぎてから、俺はICUへ向かった。
患者の状態を見ておきたくて。
「田中さん、どう?」
近くにいた看護師へ問いかけると、受け持ち看護師は新人だったのかオロオロとしはじめ、手に持っていた情報シートと電子カルテを見比べながらたどたどしく報告をくれた。
「えっと、田中さんは熱は37度で血圧は130台です」
「うん、じゃあ22時までの尿量は? 利尿剤飲ませたでしょう? そのあと尿量どうだった? ガスはアシドーシス進行ない?」
「えっと、えっと……」
俺がさらに問いかけると、俺が聞きたい内容を理解していないのか。
目に見えてうろたえ始めた。
後ろから夜勤リーダーの先輩看護師が助けに入ってきた。
たしか高橋さんという人だ。春香の先輩にあたる。
「フロセミド内服してから2時間で尿量は200でした。22時まででトータル500ですね。ガス上、酸素化は変わらず呼吸苦もありません。CVPは9~10前後です。術後3日目ですし、再度フロセミド投与しますか? それともアルブミン入れて様子見ます?」
さらさらと口から出る報告。
さらにデータの載ったカルテや検査結果の用紙も渡された。
それらに目を通す。
「んー200かぁ、少ないねぇ。思ったより出なかったか」
「腎機能がもともといい方ではないですからね」
「利尿期来るまで時間かかるかな」
「では、尿量は朝まで様子観察にしますか?」
「呼吸変わらないんでしょ?」
「はい」
「じゃあ、朝まで様子見で。血圧は140まで許容でいいよ。高めに管理しといて」
「わかりました」
ササッとペンを走らせ、メモを取る彼女。
後ろにいる新人さんは、俺たちの話していたことの理解ができないらしくぽかんと口を半開きにしている。
1年目なんてそんな感じだ。
集中治療、術後管理なんてわかるものじゃない。