例えば世界が逆さまになっても
俺のせいで、彼女が嫌な思いをしたら?
この先、彼女と再び会う機会なんてあるかどうかも定かではないけれど、それでも………
どろどろした何かが感情の中核に渦巻いてしまった俺は、咄嗟に、自分ではなくクラスメイトの名前を口にしていたのだった。
『成瀬 ……慎之介』
それは、クラスでもいつも中心にいる男だった。
明るくて、優しくて、間違ったことをしない……まるで、彼女の男版だ。
『…それじゃ』
俺は、言い逃げするような形で立ち去ろうとした。
けれどそんな俺にも、彼女は温かい笑顔をくれたのだった。
『うん、またね、成瀬くん』
成瀬くん――――その一言が、胸に刺さってしまう。自業自得のくせに。
またね、なんて、彼女はごく自然にそう告げたけれど、
そんな機会、果たしてあるのだろうか。
この時の俺には、たった一つ、彼女と自分の志望大学が同じであることだけが、彼女の『またね』を実現する手がかりだったのだ。