例えば世界が逆さまになっても




『それでさ、俺も、自分を変えたくなるような相手に出会えたらいいなって思ってたんだけどさ、実は最近、ちょっといいなって思える子と出会ったんだよ』

遅めの初恋だな、とはにかんだような顔をする。


『へえ、よかったじゃないか』

本心で、そう思った。
俺が彼女との出会いで、大げさでなく、それまでの自分の世界が変わったように感じていたからだ。

成瀬は素直に『ありがとうな』と答えた。
けれど数秒後、思いもよらないことが起こる。


『あ!』

短い声とともに、俺の肩を握ってきた成瀬。
その力は、思いがけず強い。

『なんだ?』

突然のことに、俺は、今やほぼ同じ目線になった成瀬に振り向く。
すると成瀬は俺には目もくれずにまっすぐ前を見ていて、俺はその視線を追った。


『―――っ!?』

『あの子だよ、遅めの初恋』

成瀬の見つめる先には、彼女、相沢 若菜がいたのだった。


『あの子……?』

『うん。可愛いだろ?図書館でよく見かけるんだ』

その興奮気味の声に、俺はなんと返事したのだろうか。


その後のことは、ちょっと曖昧だ。


ただ、成瀬に、俺も彼女を知っているということは、打ち明けなかった。打ち明けられなかった(・・・・・・・・・・)と言った方が正しいかもしれないが。



そして俺は、その日を境に、成瀬とは必要最小限の会話しかせず、一方的に避けるようにして、高校を卒業したのだった。









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