例えば世界が逆さまになっても




その日、午前の必修科目が休講になっていることを直前まで忘れていた俺は、五月晴れの空とは正反対に苛立っていた。

午後からの講義も取ってるから一旦家に帰るのも面倒だし、かと言って特にやることもない。
”休講になってるの忘れてた” と気安くメッセージでも送れる相手がいればまだ良かったのかもしれないが、あいにく、四月に知り合ったばかりでは、いくら改善したといっても完全には崩せていない人見知りの壁がうるさく干渉してくるのだ。


仕方なく構内散策をしていた俺は、人気のない中庭に辿り着いていた。
広大なキャンパスの中でこれほどに静かなエリアがあったなんてと、新鮮な驚きに少しの居心地の良さを見つけ、”立入禁止”の札を視界から排除して、芝生の中に足を踏み入れる。
なるべく芝を傷めないように…そんな注意は払いつつも、誰もいない公園を独り占めしてるような感覚がして、妙に心を上がらせて。

そしてごろんと寝転んで、快晴の青空を仰いだ。
目に入ったのは、とんでもない青色だった。

……なんて言ったっけ、なんとかブルー……
こんな風に晴れた日の青空の色のことを、なんとかブルーって聞いたことがあるけど……
確か、外国の島の名前で……そうだ、マジョリカブルー。

その呼び名を知ったとき、ただの”青”よりも青っぽい印象を受けた覚えがある。
マジョリカブルー。
今日の空色は、青の中で一番青らしい青だ。

そう思った俺は、思わずスマホを取り出していた。
画面いっぱいが、眩しいばかりの青になる。
スマホの中にマジョリカブルーを残すことができた俺は満足し、そのまま、視界の隅々までに広がる空を眺めていた。









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