例えば世界が逆さまになっても




はじめて会った頃に比べたら髪型も違うし、メイクをして大人っぽくなってるけど、間違えようがない。
最後に見かけたときよりも、ずっと綺麗になっている彼女が、俺に、今、話しかけているのだ。

けれど、彼女の方は俺の顔を見ても、まったく何も気付かないらしい。
顔と顔を見合わせて、はっきり目と目が合っているのに、それでも俺を思い出してもらえないことに、少しはショックがあった。
だが、あのときの俺と今の俺では、外見も中身も大きく変わっていると自覚しているので、気付かれないということは、ある意味では喜ぶべきなのかもしれない。
変身は成功したのだと。

あのときの俺は、彼女と一緒にいることすら相応しくないと恥ずかしくなるほどだった。
だが今は、少しは…いや、結構、彼女に近付けてるはずだから。
大丈夫、大丈夫だ。
今の俺なら、彼女と並んでも大丈夫。
そのために頑張ったんだろ?
自分に言い聞かせながらも、突然の彼女との再会に、心臓の音がやかましかった。

彼女がここにいるということは、彼女もあれから諦めずに頑張ったということだ。
あのとき彼女は、俺がきっかけで諦めるのをやめたと言ってくれた。
そう思うと、彼女とこの大学で再会できたことに、胸が熱くなってしまった。


『大丈夫?』

もう一度、訊かれた俺は、慌てて、

『大丈夫です……』

そう答えた。
すると彼女はかすかに表情を変えて、『こんなところで何してるんですか?』と言いながら、俺の横に腰をおろした。










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