例えば世界が逆さまになっても
『あ…、空が、青かったから、写真を……』
人見知りの癖はそこそこ改善できたはずなのに、やっぱり相手が彼女では、その他の人とは全然違うようだ。
俺は、治ったはずの引っ込み思案がぶり返しそうになり、内心で、自分自身を叱咤激励した。
今度彼女と会ったときのために、努力してきたんじゃないか。
彼女が俺のことを覚えてないなら、絶好のチャンスだ。
ここから、彼女との関係を築いていけるのだから。
もういちど、”はじめまして” ではじめられるのだから。
俺は前向きに転がりだした気持ちを頼りに、彼女にスマホの画面を向けた。
『…これを撮ってたんです』
『わあ、綺麗な青色!』
俺のスマホを覗き込む彼女との距離に、緊張感が急上昇していく。
『今撮ったんですか?それで寝転んでたんですね』
放っておいたらどこまでも上がっていきそうな緊張を、俺は唾を飲み込むことでどうにか窘めようとした。
『…寝転がった方が、空が大きく見える気がしたので』
そう聞くや否や、
『わたしもやってみていいですか?』
言いながら、俺の返事を待たずに、彼女は俺の隣で寝そべったのだ。
『すごい!本当に空が広がったみたい!』
歓声が、超至近距離で聞こえる。
それは歓喜の声にも聞こえて、俺も嬉しくなった。緊張感が、溶かされるほどに。
何枚も写真を撮影する音、それまでもが弾んでいるように聞こえて、さらに俺の心をほぐしてくれる。
『ここまで青い青って、めったにないですよね。地面に寝転がるのも、子供のとき以来久しぶりです。でも、気持ちいい!』
幼い少女のようにクスクス笑いながら感想を口にする彼女は、出会ったときと変わってないようにも感じた。
外見は大人っぽくなったが、彼女自身は、なんら変わってない。
そのことに俺はひどく安堵した。
『……あ、もしかして、ここで誰かと待ち合わせしてました?』
ふいに、彼女が訊いた。