例えば世界が逆さまになっても
俺と若菜との付き合いは、順調以外の何物でもなかった。
些細な意見の違いや、ちょっとした価値観の差異はあったものの、大きな喧嘩に発展することもなく、穏やかな、幸せな毎日が続いていった。
けれど、互いに第一希望の就職先に内定をもらったあと、大学生活最後の学祭で、その穏やかな日々を脅かす存在と再会してしまったのだった。
『―――あれ?南條?』
バイトで先に帰る若菜と別れ、たまたま一人で学内を移動してるとき、背後から呼び止められた。
何も考えずに振り向くと、そこにいたのは、成瀬だった。
『………どうして……』
”成瀬?” とか ”久しぶり” よりも先に口を滑り落ちていたのは、決して再会を歓迎するセリフではなかった。
だって京都にいるはずなのに。
高校卒業以来、一度として俺の生活圏にはその名前すら登場してこなかった。
なのに、その京都にいるはずの成瀬が、どうしてこの大学の学祭なんかに来てるんだ?
『久しぶりだなあ。卒業以来か?』
俺の感情と反比例するように、成瀬は同窓生との再会を喜んでるように見えた。
『南條もこの大学だったんだな』
『ああ、まあ…』
言葉少なな俺に、構わず成瀬は話しかけてくる。
『俺の後輩もここに来ててさ、サークルで店を出すから遊びに来てくれって言われてたから寄ってみたんだ』
『わざわざ京都から?』
思わず漏れた疑問は、棘が隠しきれていなかった。
だが成瀬は何も感じなかったように返事してきた。