例えば世界が逆さまになっても




『内定も取ったし、暇だからな。ところでお前、また一段とイケメンになったんじゃないか?さぞかしモテるだろう?』

高校時代から変わらないキラキラした雰囲気をまとっている人間に、モテるなんて言われたくない。

『そんなの、例え世界が逆さまになってもあり得ないから』

無意識に口にしていたのは、若菜と大学で再会したときのセリフだった。
俺は若菜のことが頭に浮かんで、妙に焦ってしまう。
高校時代の嘘が、まだ存在感を持ち続けていたのだ。

そして成瀬の遅い初恋も忘れてなかった俺は、少しでも安心要素を得ようと、わざと明るく話を振った。

『成瀬の方がモテるだろう?今日も彼女と来てるんじゃないのか?』

『全然。実は今年の初めに就職のことで彼女と揉めて別れたんだ。それからは誰とも付き合ってないよ』

『へえ…意外だな』

『そうか?』

苦笑いを浮かべた成瀬は、そのあと突然『あ!』と声をあげた。

『でもさっき、すごい人と会ったんだ』

わくわくしたような、高揚した様子に、俺はわけもわからず嫌な予感が走った。


『……すごい人?』

聞きたくない気持ちでいっぱいになりながらも、聞かないわけにもいかなくて。
成瀬は俺の腕を掴みかからんばかりの勢いで打ち明けてきた。

『南條、覚えてないか?三年のとき、俺が遅い初恋の話しただろ?その女の子をさっき見かけたんだよ!』

ど真ん中に的中してしまった嫌な予感に、俺は激しい感情を抑え込まなければならなかった。










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