例えば世界が逆さまになっても
「はい、もしもし」
若菜は、成瀬からの着信をスピーカーにして応答した。
それが彼女の心遣いであることは一目瞭然だ。
成瀬には悪いが、俺は尋常でない優越感に全身が歓声をあげそうだった。
《もしもし?相沢?》
「成瀬くん?さっきはごめんね。あ、今スピーカーにしてるんだけど、いいかな?」
《スピーカー?それはいいけど……もしかして、南條も一緒?》
にわかに戸惑いを匂わせた成瀬だが、すぐに俺の存在を察知したようだった。
若菜から聞いた話を総合するに、おそらく成瀬も若菜も今までずっと互いに俺の話題は口にしてなかったのだろうから、きっと成瀬は俺と若菜の関係に疑問を持っていることだろう。
自分の仕事仲間をあんな風に攫ってしまた俺に不信感も抱いただろうし、何より若菜のことをさぞかし心配してるに違いない。
俺は若菜をもう一度取り戻せたことで、あの思い出の青い空のおかげで、四年前にはなかった自信を軸に成瀬と向き合う準備ができた。
「――――成瀬?」
若菜のスマホに、そっと語りかける。
《南條?やっぱりさっきのは南條だったんだ?》
高校時代と変わらない、人を惹き付ける明るい声に、ほんの少しの懐かしさが芽生えてくる。