例えば世界が逆さまになっても
「うん。久しぶり」
《久しぶりだよなあ。最後に会ったのは南條のとこの学祭だっけ?》
「そうだな」
どこか互いに距離感を探ってるような会話運びに、二人の間にある時の流れを感じた。
俺はスマホをこちらに向けてくれた若菜の手に、自分の手を被せた。
一緒にスマホを持つように。
一緒に、成瀬との会話を支えるように。
「それで………仕事中に、ああいうことをして、悪かった」
《ああいうこと?》
俺の硬い声に反し、成瀬はきょとんと、とぼけた調子で訊き返してきた。
「さっき、若菜を……」
《ああ、相沢のこと?そうだよ、デートの約束してるなら最初からそう言っておいてくれたらよかったのに》
成瀬のセリフに、俺は、いや俺だけでなく若菜も「え?」と驚きの声をあげた。
「成瀬くん、デートってどういう意味?」
若菜はとっさにそう尋ねていた。まるで追及するような口ぶりだったのは、若菜の吃驚をそのまま表しているのだろう。
《そのままの意味だけど……”デート” って、他に意味があるの?》
「そうじゃなくて!誰と誰が、デートするの?」
焦ってるのか、若菜の使う言葉が乱雑になってくる。
するとスマホの向こう側からは、明らかに呆れた様子の返事が投げられたのだった。
《誰と誰って、そんなの相沢と南條に決まってるじゃないか。ずっと付き合ってるんだろう?》