天魔の華は夜に咲く
余韻が残ったまま廊下を歩いていると、エレヴォスがある部屋の近くでピタリと止まった。


「あの・・どうし_」

「し・・」


指で口を押えられた。

エレヴォスは困った顔をしている。

「耳を貸して」

「へ?」


エレヴォスは静かに言った。


「これからちょっと、あなたの機嫌を損ねるかもしれませんが・・少し我慢してくださいね」


「・・え?どういう?」


全くもって意味がわからなかった。

3歩前へ出るとその部屋を通りすぎた。

そして声が聞こえた。

ドアが微かに締まりきっていなかったのだった。


「あっ!あっ!待って・・お待ちをっ」


ドキンッ


_え!?何!?


センジュの耳にもそれは届いた。

女性の切なそうな声を。

同時にガタガタと物が揺れている音も聞こえる。


「あっはっ・・あぁっ・・そんな・・駄目ですっ・・駄目っ」


ガタガタ・・ガタッ



センジュはエレヴォスの目を見つめると、エレヴォスは耳元で囁いた。


「ここはフォルノスの執務室です」


ドキンッ!


「え・・あ・・え?」


少しパニックになり頭の中が真っ白になった。


「どうやらフォルノスは侍女とお楽しみ中の様ですね」


「え・・え・・」


_えぇーーー・・・・。


心の中で叫ぶ事しか出来なかった。

脳裏にフォルノスの顔が浮かぶ。


「フォルノスをフォローするわけではありませんが、よくある事です。お気になさらず」


「・・・あ、はい」


急に頭が重くなった感覚に陥った。


_わかってる。フォルノスにだって恋人もいるかもしれないし、セヴィオだってそうだったし、アルヴァンさんだって奥さんがいたし。


と頭の中では理解しようと試みた。

しかし、想像と目の前で起こっている状況ではショックの大きさは段違いだ。


_明日からどんな顔して話せばいいの・・私。気にせずって言われても記憶は消せないよ!


落胆している耳に女性の声が容赦なく入ってくる。


「あっ・・もう・・くっる・・きちゃ・・フォルっ・・ノス・・さ__」


_聞きたくない!!!


目をぎゅっとつむると、エレヴォスは耳を手で覆ってくれた。


「行きましょう」



エレヴォスは足早に廊下を駆け抜けた。

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