天魔の華は夜に咲く
カチャカチャと食べ終えたお皿を侍女が片づけてくれている。

昼食を終え、まったり気分のセンジュだ。


_なんか、今日は魔界で暮らして一番幸せかもしれない・・。



初めから色々ありすぎて疲れていた。


_もしかして・・私をリフレッシュさせてくれる為に連れてきた・・とか?


ジッとフォルノスを見つめると、フォルノスは目を細めてしかめてきた。


「?」


_なわけないか。



するとフォルノスは真面目な顔に切り替わった。

執事と侍女を部屋から出した。

センジュと2人きりになった。


「ところで」

ドキン

「何?」

静かな部屋にフォルノスの低い声が響く。

「天使とのハーフだった件だが」

「は、はい・・」


触れられたくない話題だ。自分でも忘れたいと思っていた件だ。


「天使の力は感じられないのか?」

「あ・・・」


センジュは横に首を振った。


「ウリエルに攫われた時に、ママの血が濃いんじゃないかって言われて」

「ほう?」

「ウリエルの傷に手をかざしたらね・・その・・」


_言いたくない。こんな力・・魔界の皆に使えないなら。


「そうか。ウリエルの傷が治っていたのはお前の力だったか」

「う、うん・・ごめん」


落ち込んだ様子のセンジュに、フォルノスは言った。


「仕方あるまい。事実は事実だ」

「でも・・折角力があるのに皆に使いないなんて・・こんなの意味ないよ」

「確かに我らにとっては無効だな」

「・・・」

「だがな、お前はベリオルロス様の娘だ。絶対に魔族の力も備わっているハズだ」

「フォルノス・・」


その言葉に勇気づけられた。


「あの方がお前を手元に置いておく理由が必ずあるハズだ」

「・・うん」

「だが昨日も言ったが、油断はするな。全てを信じるな。お前は弱い。すぐに利用される」


_フォルノスはなんだかんだ言って心配してくれてるんだ。本当は誰よりも優しいのかもしれない。


「わかった。でも、私は・・・」


ドキン


ドキン


ドキン


言いたい言葉があった。


_怖い・・でも言わなきゃ・・。


フォルノスは首を傾げている。


「なんだ?」

「私・・フォルノスの事は信じたい」

「・・・」


その言葉にフォルノスは無言を貫いた。

ただジッとセンジュを見つめている。


「フォルノスはいつも酷い事は言ってくるけど、的確にアドバイスしてくれるし・・だから、フォルノスの事は全部信じてもいいよね?」

「・・・」


勇気を振り絞ってフォルノスの眼を見つめた。

しかしその瞳をフォルノスは逸らした。


「駄目に決まってるだろうが」

「な、なんで・・!?言ってる事おかしいよ!」

「全てを信じるな。俺も他の奴らと同じだ」

「でも、フォルノスはいつも魔界の事とか考えてるでしょ!?それって誰よりも皆の事を考えてるって事で・・私にだって」

「駄目だ」


_誰よりも心配性で誰よりも思いやりがあるハズなのに。


「どうして?」

「魔界は人間界とは違う。すぐに手のひらを返される」

「それも経験なの?」

「・・・そうだ」

「だから私にも同じ様になって欲しくないって思ってるの?」

「・・・」

「フォルノス・・」

「煩いな・・お前を見ているとイライラしてくる」


ズキン


ぐさりと刺された感じがした。

何も言えなくなってしまった。

叩きこむ様にフォルノスは言った。


「お前の様な危ない存在はすぐに消すべきだった。ズケズケと心を支配し、冷静ではいられなくなる。それは俺にとって危険な事だ。一度は伴侶にと言ったが撤回する」

「・・そんな事・・」

「多少マシになったが、人間として育ったお前は根本的に弱い。放っておけばすぐに死ぬ。魔界では生きられない。ましてや天使の血も継いでいた。今お前は魔界にとって一番危険な存在なんだ」

「魔界にとって・・危険・・」


ショックで体がじんじんする。

目頭がじわりと熱くなった。


「俺は、正直あの方の考えが読めない。どうしてお前を生かしておくのか・・あんなに愛おしそうに撫でるのか理解が出来ない」

「・・・」


_もう、わかった。わかったから・・それ以上言わないでよ。


ボロボロと零れた涙に、フォルノスはため息をついた。


「すぐにそうやって涙を見せる。残念だが俺にはなんの効果も与えない」



_違うよ。これは勝手に出てくるだけで術でもなんでもないよ。



「じゃあ・・フォルノスは私にどうして欲しい?」

「何?」

「私・・皆の事・・好きだから・・っ・・パパの役に立ちたいから・・どうすれば・・いい?」

「・・・」


フォルノスはセンジュの訴えを聞いても、言い過ぎたとは思わなかった。自分の感情を掻き立てる危険な存在だと悟ったのだ。


「フォルノスの言う事を聞く。それが一番てっとり早いんでしょ?だったら」

「違う!そういう事ではない!話にならない」

「待って!」


立ち上がったフォルノスの手をセンジュは咄嗟に握った。


「ねえ、フォルノスは・・私の事・・嫌い・・だよね」


ぎゅううっ

とセンジュの握る手は強かった。


「・・ああ」


フォルノスの言葉に、センジュは手を離した。


_そうだよね。こんなにイライラして、怒ってる。好きなわけない。



「わかった・・」

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