翔んでアルミナリア
力を失いかけていた蓮くんの表情にさえ、はっとした驚きが浮かぶ。

「ど…ゆぅ、実花子…」

「神の遺産はたしかにカリンガに隠されていたんだと思う」
隠されていた、と過去形を使う。
「そして王家の宝は、神の遺産がなにに姿を変えているのかを教えるためのものだったんだ」

蓮。神の遺産に、これほどふさわしいものがあるだろうか。
創造主の名前なのだから。

カリンガの王宮の庭園には、蓮が植えてあったという。
その株を、エレオノア姫のために皇帝が取り寄せ、アルミナリアの宮殿に植えられた。
そしてその花を蓮くんがわたしにーーー

ポケットから蓮の花で作った匂い袋を取り出す。それは内側から淡く光を放ち始めていた。
日と月の巡り。営々と繰り返される月日のなかで、人と人が出会い、誰かを想うということ。
それこそが宝だ。

それに気づいたとき、きっと神の遺産は願いを叶えてくれる。
光がまばゆい珠のように膨らんでゆく。不思議とまぶしさは感じない。

「神の遺産だよ、蓮くん」

「戻るんだ、実花子だけでも元の世界に…」
蓮くんが苦しい息の下で訴えてくる。

わたしは迷わなかった。
「蓮くんを助けてください」
言葉にして言うとともに、心の底から願う。その願いさえ叶えば、他にはなにも望まない。

ぶわん…と光の珠がわずかに振動するような音をたて、そしてみるまに広がり、わたしたちを包み込んだ。

体がふっと浮かぶような感覚があったけど、意識はそのまま光のなかへと溶けていったーーー
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