綺桜の舞う
ただ、ひとつだけ。
あれだけ通い詰めた倉庫に行かないと、叶奏は言い張った。
クリスマスも外出許可を取ったのに当日になって、やっぱり行かない、とあの事件以来、1回も倉庫に行っていない。


「今日の晩ご飯は?」
「何食べたい?」
「美味しいの」
「1番困る」
「じゃあからあげ」
「鶏ねぇよ」
「お鍋」
「あー、いいかも」


叶奏は大人しくテレビの前に座っていて、今までなら俺の後ろをちょこちょこ付き纏って、湊くん、って永遠とうるさいのに。


「……」


家には生活音だけが響いて、叶奏のテンションの高い声は聞こえてこない。


なんか……このまま叶奏が消えてしまうんじゃないかって、心の底から不安になる時がある。
どうしようもない不安に駆られて、柄にもなく俺から叶奏をかまいに行ってしまうのが最近の感じ。








食事を終えてお風呂上がり、ベッドの上でくつろいでいる叶奏を後ろから抱きしめてそのままスマホを触る。
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