夢みたもの
『日記』


あたしと航平の頭にあるのは、崇さんが母に渡した茶色の日記だった。

そこには、あたしの出生について書かれている。


「でも‥‥」

「知りたくない?」


知りたくない訳じゃない。

でも、知るのは怖い。


「そういう訳じゃないけど‥‥」


あたしは言葉を濁してうつむいた。


「怖い?」


頭上から、航平が崇さんと同じ言葉を投げ掛ける。

あたしは小さく頷いた。


「それは‥怖いよ。どんな事が書いてあるのか分からないし。もし‥‥」

「もし、上手くいきかけてる今の家族との関係が悪くなったらって‥?」

「‥‥」


ますますうつむいて、あたしは微かに頷いた。


「別に‥本当の親を知ったからって、今さら会いたいだなんて思わないけど‥‥、でも、もし‥、もし、会いたいって思ったりしたら‥‥今の家族を裏切ってる気がするの」


「‥‥そんな事ないよ」


少しの沈黙の後。

航平は静かにそう言った。


「読んで『会いたい』って思えるなら、その気持ちは大切にした方が良い」

「でも‥」

「会いたいって思うのは、裏切りなんかじゃないよ」

「‥‥」

「自分の気持ちに逆らって、その後ずっと後悔するなら、その方が今の家族に対して酷いと思うけどな‥?」


そう言って航平は首をかしげた。



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