夢みたもの

ピアノの音

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「あら?ひなこ、その曲良いわね」


風呂上がり。

リビングのソファで鞠子からのメールに返信していたあたしは、突然母に声をかけられた。


「え、何?」


驚いて顔を上げると、母は軽く首をかしげてあたしを見る。


「何って・・・今の曲」

「・・・曲?」


そう呟いたあたしは、思わず携帯を握り締めて立ち上がった。


「あたし・・・歌ってた!?」


昼間聞いたピアノが忘れられなくて思い出していたけれど、まさか口ずさんでいたとは思わなかった。

恥ずかしくて顔が熱くなる。


「ひなこの作曲?」


あたしに気を止めた様子もなく、母はそう言いながら、リビングの片隅に置かれたピアノの蓋を開ける。


「うん、こんな感じ・・・かな?」


あたしが口ずさんだいい加減な曲が、母の手によってちゃんとした曲に生まれ変わる。


似てはいるけれど、昼間の曲とは違う。

それでも、母の腕は確か。

ソファに深く座り直すと、あたしはピアノに耳を傾けた。


「やっぱり凄いね。あたしが口ずさんだでたらめ曲でここまで弾けるなんて」

「プロですから」


母はそう言って微笑むと、また首をかしげてあたしを見た。


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